こんにちは、asiyutaです。
SDGsについて軽く調べてみた - asiyutaの日記の記事を書く過程でジェフリー・サックス氏を知りました。
サックス氏は、ハーバード大学出身の経済学者、現コロンビア大学地球研究所所長で、SDGsの前身である国連ミレニアム開発目標(MDGs)を推進するプロジェクトのディレクターを務めた方です。
大衆向けに著書も出されており、SDGsの理解を深めるために数冊読んだのですが、世界の貧困問題の現状・解決策の考え方や、SDGsの成り立ちを理解するのに大変勉強になりました。
本日は、学んだ知識の整理がてら、サックス氏の著書「貧困の終焉」と国連広報センターのSDGs資料(2030アジェンダ | 国連広報センター)をベースに、世界の貧困問題の現状と解決策の考え方について、まとめようと思います。
世界の貧困問題・SDGsに興味がある方の参考になれば幸いです。
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1.世界の貧困の現状
国連広報センターの資料によると、世界人口の11%に当たる7億を超える人々が、「極度の貧困」の中で暮らしています。
「極度の貧困」とは、病気と飢えにより生きるためにギリギリな状態を指します。この状態の人の多くは、南アジア、サハラ以南のアフリカで暮らしています。
「極度の貧困」の暮らしの具体的な様子を「貧困の終焉」からご紹介すると、
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エイズによる死で、20~40歳男性がたった5人しかいない村。
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公共の貯水塔から水を汲むため、朝早く起き、夜は遅く出かける。遠い道と滑りやすい斜面を超え、重い水の容器を運び、長い行列に並んでじっと待つ。わずかな水で家を掃除し、食べ物を調理し、食器を洗い、洗濯をし、子供たちに湯浴みをさせる。普段使っている水源が枯渇したときには、水を買ったり、せびったりして手に入れる。汚いトイレを使うために行列をなすこともある。
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将来の夢は教師という子供。病気のせいで学校には行ったりいかなかったり。水汲みや薪拾いの手伝いをし、兄弟姉妹やいとこたちの世話をする合間にしか学校へは行けない。教材・制服・授業料のお金がない家庭や、学校までの数キロを安全に歩いていけない家庭も。
というような暮らし。世界には、このような暮らしをしている人が7億人もいるのです。
これまで私はあまり貧困問題と向き合ってこなかったのですが、この事実を認識し、かなり衝撃を受けました。例えば、自分が今日会った人全員がこのような生活をしていると想像してみると・・・いかに酷い状況かが想像できますね。
参考:国連広報センター資料:https://www.unic.or.jp/files/01_Rev1.pdf
2.世界の貧困解決に向け、目指すは「開発の梯子の1段目」
では、どのようにこの「極度の貧困」を減らしていけばよいでしょうか。
サックス氏は著書「貧困の終焉」の中で、外部からの支援によって、開発の梯子の一番下の段に足をかけさせることが重要と説いています。(※開発の梯子:経済発展を例えた比喩で、梯子の段を上がる=経済的な幸福 と定義)
ここで、開発の梯子の一番下の段に足がかかった状態についてご紹介すると、
- バングラデシュの縫製工場。そこで働く女性たちは、インタビューに対し、勤務のつらさ、労働条件の厳しさ、ハラスメントについて語る。が、一方でその仕事は生活を激変させるチャンスと述べた。
- ほとんどの女性が地方出身で、とても貧しく、読み書きができず、学校にも行けず、高圧的な家父長制の中で心身ともに疲弊していた。彼女たちが村にとどまっていたら、父親の決めた相手と結婚させられ、17~18歳で子供を産まざるを得なかっただろう。それが、仕事のために都会まで歩いてくるようになって、若い女性たちは、これまで前例のなかった個人の自由を獲得する機会を手にした。
- 収入の使い道について聞くと、自分の部屋を持ち、誰といつデートし結婚するかを自分で決め、欲しいと思ったときに子供を産み、自分の生活をよくするために貯金を使い、とくに学校へ戻って読み書きなどの仕事に役立つスキルを身に着けるために貯金を使うと回答する人が多かった。厳しい暮らしとは言え、これは経済の発展に向かう道の第一歩。一昔前の田舎の村では想像もできないことだった。
- 彼女たちにとって、工場は一人ひとりに自由な暮らしをする機会を与えてくれただけでなく、技能を身に付けて自分で稼ぎを得る梯子の一段目となる。さらに数年後には、子供たちにもその可能性が与えられる。
イメージ湧きましたでしょうか?
このような近代産業の一端に接続することが非常に重要なのです。ここまでくれば、あとは、自力でもなんとか梯子を上がれるとのこと。各人は資産を貯め、自己投資し、徐々にではありますが、貧困から抜け出すことができます。
3.貧困解決には外部の支援が不可欠
ここまでで、開発の梯子の一段目と、梯子に足をかけられていない状態をご紹介しました。この2つの状態にはかなり大きな乖離がありますが、この差を埋めるために必要なのが「外部からの支援」になります。
極度の貧困エリアに住む人々は、あまりの貧しさゆえに、将来に向けた投資ができません。貯蓄が少し貯まったとしても、すべてを生きるために使わざるを得ません。この負のループから抜け出すには、外部からのまとまった投資が不可欠なのです。そして、その投資額は、先進諸国からしたらごくわずかな投資額で十分です。
サックス氏の試算によれば、全世界の極度の貧困に終止符を打つために必要な費用は、世界の豊かな国々の総所得の1%以下(年間1750億ドル≒20兆円弱)とのこと。1%を貧困国へ回すことで、7億人の貧困に苦しむ人々が安心安全な生活を送れると考えると、私としては投資する価値は十分あるので是非やってほしい、と感じました。
https://www.unic.or.jp/files/01_Rev1.pdf
4.貧困解決の最適な支援策を見定める「臨床経済学」
外部からの支援方法についてですが、サックス氏は「臨床経済学」という概念を提唱します。これは、医師が患者の病気を診断するのと同じように、地理的・歴史的背景を考慮して途上国の現状を詳しく分析し、それに適した途上国経済開発の援助をすべきだとする考え方です。平たく言えば、地域に合った支援をしよう、ということです。過去の国際社会やサックス氏自身の反省から生まれた概念です。
どのような反省かを、著書からご紹介すると、
貧困は経済の問題という杓子定規の理解と、それによる定型化された支援メニューによって、本当に必要な公衆衛生的支援が全くされてこなかったという実情を表している場面ですね。
確かに、マクロエコノミストに公衆衛生的な解決策を提案させることはかなり無理がありますが、本質的な問題解決には、総合的なアプローチが必要になるということです。
なお、臨床経済学における国の現状を分析するためのチェックリストを参考までに紹介します。最適な支援には、本当に多岐にわたる分野横断的な実態理解が必要なことがわかるかと思います。
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貧困の罠
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貧困の見取り図
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基本的な要求が満たされていない家族の割合
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世帯単位の貧困の分布
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基本的なインフラストラクチャーの分布(電力、道路、電気通信、水と衛生設備)
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民族、ジェンダー、世代別の貧困分布
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おもなリスク要因(人口の動向、環境の動向、気候によるショック、病気、日用品の価格の変動、その他)
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経済政策の枠組み
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ビジネス環境
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貿易政策
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投資政策
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人的資本
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財政の枠組みと財政の罠
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公共部門のカテゴリー別歳入と出費(GNP比、国際基準との絶対比)
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税収と支出の管理
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貧困撲滅のための公共投資
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マクロ経済の不安定性
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公共部門のデットオーバーハング
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偽の財政赤字と隠れた債務
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中期的な公共部門支出の枠組み
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物理的な地理的条件
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輸送状況(港湾、国際貿易ルート、航行可能な水路への近さ、舗装道路の利用状況、自動車輸送の利用状況)
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人口密度(電力、電気通信、道路の接続にかかるコスト、一人当たりの耕地面積、人口密度におよぼす環境の影響)
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農業環境(気温、降水量、日照時間、農産物の生育期の長さと安定性、土壌・地形・灌漑の適性、年間の気候の変動、気候パターンの長期的な傾向)
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疾病環境(人間の病気、植物の病気と害虫、動物の病気)
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政治の形態と失策
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公民権と政治的権利
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公共政策システム
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脱中央集権と財政の連邦主義
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腐敗のパターンと度合い
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政権の継続性と長さ
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国内の暴力と防衛
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国境地帯の暴力と防衛
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民族、宗教、その他文化的断絶
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文化的障壁
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ジェンダー関連
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民族および宗教の分裂
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集団移住
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国際安全保障関係
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国境を越えた脅威(戦争、テロリズム、難民)
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国際的な制裁
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貿易障壁
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地域および国際的なグループへの参加
5.実情に合った支援策を見定め、複合的なパッケージで支援する
- 人的資本:健康、栄養、個々人が経済的な生産性を発揮するのに必要なスキル
- ビジネス資本:機械、設備、農業・工業・サービス業における自動車輸送
- インフラストラクチャー:道路、電力、水と衛生設備、空港と海港、長距離輸送通信システム。これらはビジネスの生産性に大きく役立つ。
- 自然資本:耕作可能な土地、健康な土壌、生物多様性、うまく機能性テイルエコシステム(人間社会に必要な環境サービスを提供する)
- 公共制度資本:民法、司法制度、政府のサービス、警察。これらは労働部門の平和と繁栄を支えるもの。
- 知的資本:科学およびテクノロジーのノウハウ。ビジネス関連の製品の生産性を高め、物的資本と自然資本を増進させる。
6.貧困解決に向けた世界の歩み
- 2000年9月、ニューヨーク国連サミットで国連ミレニアム宣言が採択。世界の貧困問題の解決を目標に。2015年までに達成すべき目標が設定されたミレニアム開発目標(MDGs)が作成。
- 2015年の国連サミットで、MDGsを受け、世界の現状も踏まえた2030年までの道筋である「2030アジェンダ」が採択され、2030年までの目標である持続可能な開発目標(SDGs)が策定される。
ミレニアム開発目標報告(MDGs)2015の要約版[PDF]
我々の世界を変革する:持続可能な開発のための 2030 アジェンダ(外務省仮訳) - 2020年現在、SDGsが進行中。2030年までに貧困に終止符を打つペースでは進んでおらず、新型コロナウイルス感染症により、進みが後退し、貧困が逆に増加してきているよう。。
全世界で合意形成しながら、徐々に進めつつはあるが、なかなか理想通りには進まない様子が見えますね。新型コロナにより、各国自分の国優先になりつつあるので、この先より進みは厳しそう…。。
7.日本にいる僕らにできることは?
最後に、僕らにどんなことができるのか、まとめたいと思います。
- 民間企業から支援
ODA絡みのビジネスや、民間での貧困国でのビジネス等で、携わることができそう。
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政府から支援
政治家や官僚になり政策立案に携わったり、JICA関係から携わったりできそう。 - 科学・学術界から支援
サックス氏のように、研究者・学術界からアプローチする方法も当然ある。 - 寄付で支援
直接的に自分が働いて支援しなくても、寄付という手段もある
開発途上国への寄付の種類は?世界の子どもたちを救う効果的な寄付の仕方を知ろう|国際協力NGOワールド・ビジョン・ジャパン
※貧困問題、国際開発関係の参考書籍・気になる書籍
(1)ジェフリー・サックス氏の著書
貧困の終焉/ジェフリーサックス
本記事のベースとなるサックス氏の著書。世界の貧困問題の現状、解決策、SDGsの背景を知るのに本当におすすめです。サックス氏の体験談も多く描かれていて、現場感が伝わってきました。
地球全体を幸福にする経済学 / ジェフリー・サックス
(2)サックス氏の論敵、ウィリアムス・イースタリー氏の著書
(3)サックス氏の著書内でも何度も出てきた、グラミン銀行のムハマド・ユヌス氏の本
よく聞くグラミン銀行のムハマド・ユヌス氏。著書を読んでより深く理解したいところ。