asiyutaの日記

知識・経験・思考のまとめ

ラグジュアリー産業におけるブランドマネジメントとは

最近、ブランディングやブランドマネジメントについて学びを深めており、その中でラグジュアリー産業におけるブランドマネジメントの本と特に読みあさっておりました。

本日は、頭の整理がてら、ざっくり記事にまとめてみたいと思います。

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1.ラグジュアリー産業の発展の歩み

  • 古代は、王権や宗教的権力を示すためにラグジュアリーが用いられた。
  • 産業革命以降、経済発展で人々は豊かになり、ラグジュアリーに手が届く人が増加した。
  • 自由平等化が社会階層を取り除き、女性を含む多くの人がラグジュアリーに手が届くようになった。
  • 都市化により、人々はアイデンティティの再構築を迫られ、ラグジュアリーブランドの所有による自分らしさの構築という需要が生じた。
  • グローバル化とICT技術が、需給量を増幅させ、ラグジュアリー市場をさらに広げた。

 

2.ラグジュアリーの立ち位置(ラグジュアリー・プレミアム・ファッションの差異)

  • ラグジュアリーとは
    • 夢を売る
    • キーワードは、値踏みできない(Priceless)、贈り物(Gift)、社会的地位向上(Social elevation)、悠久(Timeless)、唯一無二の絶対級
  • プレミアムとは
    • 性能・品質を売る
    • キーワードは、現実主義(Realism)、コストパフォーマンス、投資、性能、真面目、比較級における一番
  • ファッションとは
    • お洒落・流行を売る
    • キーワードは、魅惑(Seduction)、軽薄(Frivolity)、社会的模倣性(Social imitation)、瞬時(Instant)、四季のリズム
  • 近年の動向
    • ラグジュアリーは人文科学的な概念であり、社会情勢に応じて変化し続ける。
    • 今後、ラグジュアリーは高級品業界という括りではなくなり、文化と創造性に秀でた商品が入り乱れる市場になっていくことが予想されている。

 

3.ラグジュアリーを取り巻く環境の変化

  • 市場のグローバル化
    • ラグジュアリー商品の販売拡大のために、新しい市場が必要。
    • 欧米以外の市場として、日本、中国への進出
    • 富裕層以外の市場として、アッパーミドルクラス向け(「並外れた人々の普通のもの」に加え「普通な人々の並外れたもの」も)、中間層向け(アクセサリー)へ進出。
  • 大企業の形成
    • 市場のグローバル化によりブランド間の競争が激化し、資本が必要に
    • 上場による資金調達
    • 企業グループの形成(多数のブランドを所有、不動産・金融・流通などの集中化)
  • ブランドヘリテージに基づくマーケティング戦略
    • ラグジュアリー産業は物語と商品の上に成立。物語はブランドの魅力を引き出し、商品は物語を具現化。
    • グローバル化で、世界中の消費者に一貫した商品と物語の提供を迫られ、強いブランドメッセージとアイデンティティが必要に。
    • そこで「ブランドヘリテージ」という概念が考案。過去と強く結びついた要素をさまざまに含む、構築された物語。もし歴史がなければ、創り出すのも可。
    • ヘリテージによって、商品開発(アイコンとなる製品の定番化などを通じ、ヘリテージを物理的に体現)、コミュニケーション戦略(メディアや宣伝広告で何を語るか)、流通・小売システム(百貨店から専門店へ、旗艦店出店、店舗での演出や顧客体験)という3つの主活動を管理。

 

4.ラグジュアリーの夢はどのように作られるか

  • ラグジュアリーの夢の公式 : 夢=ー8.6+0.58×ブランド認知ー0.59×購入
  • ブランド認知がなければ、夢は存在しない。欲望の推進力を引き起こすには、ブランドが知られている必要がある。
  • ブランド認知が高ければ、見てそのブランドだとわかる人の数と実際にブランドを身に着けている人の数には違いがあり、この差が夢を創り出す。
  • 夢の価値は、購入したことはないものの認知している人の数により醸成される。

 

5.ラグジュアリーはどのように知覚されるか

  • ラグジュアリー知覚の代表例
    •  精選
      • 稀少性(専門的技術、伝統、製作・伝承、選択的販売網など)
      • 排他性(永続性・独創性、万人向けでない)
    • 誘惑
      • 名声(魅惑、手の届かなさ、価格)
      • 創造(ファッショナブル、先導的ブランド、階級を与える)
  • 各国で異なる知覚
    • 世界共通の知覚は「高品質」「高価」「プレステージ
    • 日本は「美」「希少性」「遺産」の相対的に高く、一方で「楽しさ」が極端に低い。
    • 中国は「パーソナライズされたサービス」「少数派」「ファッション」が高め。
    • 各国で知覚のされ方が異なるので、異文化理解とその国に応じた戦略立案が必要となる。
  • 知覚変化の可能性
    • 代表例にある「排他性」「名声」「階級を与える力」について、重要性が薄れる可能性が指摘されている。
    • これらは富中心の格差がある社会でこそ成り立っていた知覚。社会構造がなくなり、透明性が高まり、個々の人間らしさに焦点があたるこれからの社会では、「文化」「創造性」「持続可能性」などがキーワードになるのでは。

 

6.ブランドヘリテージの素となる資産とは

  • 歴史
    • 単なる年号ではなく、歴史上の出来事、伝説として受け継がれてきた物語など。
    • 例えば、ルイヴィトンにおける旅の芸術、女王やマハラジャに捧げられてきたカルティエ、映画スターの靴職人としてのフェラガモ。
  • 人物
    • 偉大な業績をブランドに残した人物。
    • 例えば、創業者、技術者、デザイナーの想い、情熱、こだわりへの敬意・賛辞。
  • 土地
    • 創業地、主力工場所在地
    • 国よりも地域や村単位
  • 製品・技術
    • アイコン的製品(エルメスケリーバッグバーバリーのトレンチコート、ラルフローレンのポロシャツ)
    • 専売特許的なノウハウ、製造技術、特許、デザイン(ヴァンクリーフ&アーペルのミステリーセッティングなど)

 

7.ラグジュアリーブランドが構築すべきバリューチェーンとは?

  • 全体
    • バリューチェーンの完全制御。原料調達~小売まで100%制御。
      • 顧客に夢を抱かせ続けるために徹底的な管理が必要。
    • 芸術との関わり合い
      • 芸術のように悠久で奥深く世俗的でないものと見なされるため。
      • ラグジュアリーにおけるグローバル化と工業化の流れの中で、工業品ではなく芸術品と見られる必要性が高まっている。
  • 商品開発
    • 顧客の要望は取り持つな
      • 顧客のニーズに応じて商品を創るのではなく、顧客が開発した商品に夢を抱くようにしなければならない。
  • 調達・製造
    • 高度な職人技

      • 人間の手作業が重要な役割を担わねばならない

    • 並外れた品質

      • 比類のない製品であることを示さねばならない
    • 持続可能性
      • SDGsの圧力下、持続可能性に応えないラグジュアリーはラグジュアリーでいられなくなる
    • 生産は外部委託・国外移転せず、「~~製」を持続させる
      • ラグジュアリーの購入とは、文化・国柄が染み込んだ製品の購入である。
      • 「~~製」が信頼と熱望を喚起する手段として機能させなければならない。
      • 傍に製造現場を持つことで、品質の管理に目が届く。外部委託(ライセンス契約)により品質に目が届かない状況は作ってはならない。
      • 国内生産を維持するには、下請け業者の倒産に備え買収・承継したり、希少職種の人材を育てるための学校を創設したり、業界の制度構築の役割を果たす必要も場合によっては生じる。
  • マーケ
    • 夢を抱かせるための広告
      • 売るための広告ではなく、夢を抱かせるコミュニケーションを行う
    • 標的顧客以外への広告
      • 標的顧客以外にもコミュニケーションし、ブランド認知を拡大する。これによりラグジュアリーの夢が創造される。
    • 常に平均価格を上昇
      • ラグジュアリーの夢を持続させるため、顧客増加や所得水準上昇に合わせて価格を上昇させ、希少性・排他性・名声を維持しなければならない。
    • 有名人を広告に使わない
      • ラグジュアリーブランドは、たとえ顧客が超有名人であっても、顧客の上に立たなければならない。有名人を起用するということは、ブランドの地位が、その有名人の地位に依存していることを認めるようなものである。
  • 販売
    • 売店での体験を完全に制御せよ
      • 顧客の小売店での体験を管理化におき、ラグジュアリーの夢を損なわないようにする。
    • ライセンスを発行するな
      • ライセンス発行は、ブランドが制御を失い、消費者が嫌な経験をする危険性を増幅させる。
    • 限定された販売網
      • 販売網を限定することで、小売店体験のコントロールを行うとともに、顧客がなかなか買えないようにすることで、希少性・排他性・名声を構築する
    • 顧客の上にたて
      • ラグジュアリーは社会的地位が上がったことを示す証拠にもなる。この象徴性を守るため、ブランドは常に顧客の上に立ち、敬意を払いつつも一定の距離を保ち、顧客に対して助言者、教育者、案内役の役割を担う。
    • 顧客との1対1の関係を構築
      • 顧客をVIPとして扱い、顧客個人に合わせたサービスを行うことで、小売店体験を最上なものにする

 

8.ラグジュアリー市場への参入プロセス

  • まずは小さく始めて、収益を上げる。顧客との関係性を構築する。
  • 収益が上がったら、急速に成長させる。
    • 成長には壁がある。
      • 顧客の数が閾値を超えるまでは、コミュニケーションと流通チャネルに対する投資は、利益を生み出さない。
      • ひとたび顧客数が閾値を超えると、コミュニケーションへの投資は、ブランド認知度を高め、夢を膨らませ、収益性が見込めるようになる。
    • 閾値に達する前は、当初からの少数の中核顧客を引き付けるために、「製品の提供」と「個人的な夢」の構築に限られた経営資源を集中することで収益性が高くなる。
    • 閾値を超えたら、新規顧客の獲得に貴社の経営資源のほとんどを投下すべき。これを通して、ラグジュアリーの夢を発展させ、グローバルな拡張を確実にできる。

 

9.参考書籍

ラグジュアリー戦略 | カプフェレ氏 ほか

ラグジュアリー戦略を体系的に解説した名著。本書出版以降に書かれたラグジュアリー産業関係の本は、必ずこの本を引用していると言っても過言ではない。

 

カプフェレ教授のラグジュアリー論 | カプフェレ氏 ほか

ラグジュアリーがマス化する中、いかに稀少性を維持し、夢を構築し続けるか、を解説した本。前著と合わせてよむことで、深く理解できる。

 

ファッション&ラグジュアリー企業のマネジメント | コルベリーニ氏 ほか

ラグジュアリーとファッションの違い、ラグジュアリー企業が近年ファッションの振る舞いをどのように取り入れているか、を解説した本。

 

ラグジュアリー産業:急成長の秘密 | ピエール=イヴ・ドンゼ氏

阪大教授のドンゼ氏が、1990年ごろからココ30年ほどで急速に発展を遂げたラグジュアリー産業の成長要因を解説した本。日本語で出版された本でとても読みやすい。

 

新・ラグジュアリー | 中西洋之氏 ほか

ラグジュアリーの概念が近年変わりつつあることをとらえ、どのような方向性に移行していくかを解説した本。カプフェレ氏の書籍が出版されてから10年以上が経過し、カプフェレ本を鵜呑みにする危険性を感じられる。