asiyutaの日記

知識・経験・思考のまとめ

エネルギー政策の見通しについて簡単にまとめてみた

皆さん、こんにちは。asiyutaです。

先日、第6次エネルギー基本計画のパブリックコメントが行われましたね。

 

エネルギー分野は個人的に関心がある分野で、特に今年の4月に温室効果ガスの削減目標「46%」が表明され、実行計画が気になるところでしたので、パブコメ案と、その案のとりまとめを行った「総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会」の過去会議の配布資料・動画を1年ぐらい遡って見ておりました。

 

本日は、それらを踏まえ、日本のエネルギー政策の見通しを頭の整理がてら簡単にまとめてみたいと思います。

エネルギー政策に興味あるけど、詳しいことはようわからん、みたいな方の参考になれば幸いです。

 

第6次エネルギー基本計画(案)に対するパブリックコメント(意見募集)|資源エネルギー庁

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1.エネルギー政策の基本原則を押さえる

日本のエネルギー政策の大原則として「S+3E」という言葉があります。それぞれ

  • S:Safety 安全性
  • 3E:
    • Energy Security エネルギーの安定供給
    • Environment 環境への適合
    • Economic Efficiency 経済効率性

の頭文字を示しており、趣旨としては、

  • 安全にエネルギーを使うことは大前提。原子力、自然災害の激甚化、増えるサイバー攻撃にしっかり対応必要。
  • 資源が乏しい日本。気候変動が進み、国際情勢も変化する中、エネルギーの安全保障を守ろう。
  • 日本の温室効果ガス排出量の8割以上をエネルギー分野が占めており、エネルギー分野が環境配慮することが重要。
  • エネルギーは産業活動・暮らしの基盤。低コスト化は必須。

となります。この4点を守ったうえで、エネルギー政策を立案することが大事ということですね。

 

2.エネルギー政策の目標のおさらい

1で原則を押さえたうえで、改めてエネルギー政策の目標をおさらいしますと、

となっています。少し補足すると

  • 世界的目標は、2015年の「パリ協定」で「今世紀後半のカーボンニュートラル」を実現すること。この目標には先進国・発展途上国の両方を含みます。
  • カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出量をトータルでゼロにすること。温室効果ガスとは、熱を溜めこんでしまう気体で、よく知られているCO2の他、メタン・フロン等も含みます。また、「トータルで」とした理由は、空気中の温室効果ガスを回収する技術もあり「排出-回収=トータルで0」という意味を含むためです。
  • 2013年度比となっている理由は、東日本大震災による原発停止により、火力発電がフル稼働していた2013年度が、日本の温室効果ガス排出量が過去最高量だったためです。各国そういう事情で2030年目標の基準年がバラバラになっています。

 

3.目標をどう実現するのか

まず前提情報として、

  • 温室効果ガスは、「電力部門」と「非電力部門」の2部門から排出されます。
  • 電力部門からの排出とは、その名の通り電気を作るときに、石油・天然ガスなどを燃やすことで排出される温室効果ガスを指します。
  • 非電力部門からの排出とは、例えば自動車のガソリンや、ガスコンロで使う都市ガス、鉄鋼業の高炉で使う石炭などを燃やすことで排出される温室効果ガスを指します。

 

この前提を踏まえたうえで、カーボンニュートラル達成への大枠の方向性ですが、

  • まず徹底的に省エネ化して、エネルギー消費量自体を削減
  • 電力部門では、自然エネルギーなど温室効果ガスが発生しない発電方法へ転換
  • 非電力部門では、可能な限り電化を進める(ガスコンロ→IH、ガソリン車→電気自動車、のイメージ)。
  • 電化が難しい分野は、水素・合成メタンなどを用いて脱炭素化を図る。
  • それでも残る温室効果ガス排出は、回収技術を用いて除去

とされています。

 

また、2050年というのはかなり先の話なので、実現に向けては、複数のシナリオを想定したうえで、技術革新・国際情勢の動向をウォッチして、適宜柔軟に変化させていくことが重要とされています。

 

4.目標実現のための主要課題は何か

3で方向性を踏まえたうえで、ここでは各部門での主要な課題についてまとめますが、その前に再度前提情報です。

  • 温室効果ガスは、「電力部門」と「非電力部門」の2部門から排出されます。
  • 別の分類方法として、エネルギーの最終消費部門の観点から、温室効果ガスは、「産業部門」「業務部門」「家庭部門」「運輸部門」の4部門から排出されます。
  • 「産業部門」とは、製造業、農林水産業、鉱業、建設業のこと。
  • 「業務部門」とは、企業の管理部門等の事務所・ビル、ホテルや百貨店、サービス業等の第三次産業のこと。
  • 「家庭部門」とは、一般家庭の冷房用、暖房用、給湯用、厨房用、動力・照明等のこと。
  • 「運輸部門」とは、乗用車やバス等の旅客部門と、陸運や海運、航空貨物等の貨物部門のこと。

以上を踏まえ、各部門での主要課題をまとめます。

 

(1)電力部門の主要課題

再生可能エネルギーの最大限の導入

発電方法を、化石燃料を使わないクリーンなエネルギーに転換すること。特に、太陽光・風力の利用が非常に重要です。

導入に向けては、

  • 浮体式洋上風力発電などの開発により導入可能量を増やし、
  • 導入の合意形成プロセス(漁協との調整、農地の転用、等々)の改善や、電力市場の整備をして、導入しやすい環境を作り、
  • 導入・発電した電力を全国(特に大都市)に送るための送電網を整備して、
  • 天候の影響を受けないよう、蓄電池・水素・揚水式水力発電などのバックアップを確保して安定性を高め、
  • 再エネの発電出力の不安定さを吸収できるよう、電力網の高度化を進めること

等が具体的課題となります。

 

原発の方向性明確化

現状「短期では重要な発電方法の1つ、長期的には依存度を低減する」としか記載がないですが、原発の耐用年数は40~60年と言われ、もうじき多数廃炉されてしまいます。

原発を継続活用するために新設するのか、それとも耐用年数を迎え縮小していくのかを、判断しなければならない時期が目前に迫っています。

福島第一原発事故の影響から政治的判断を誰もできず、なし崩し的に原発廃炉・縮小→火力再導入→カーボンニュートラル目標未達、となってしまいそう…)

 

③水素・アンモニアを活用した発電方法の実用化

水素・アンモニアは、

  • 燃焼時に温室効果ガスを排出せず、再エネの余剰電力で製造した水素・アンモニアを使えば、クリーンな発電方法となる。
  • 火力発電と同様に、再エネの不安定さを調整する役割を果たせる
  • 既存発電設備の大部分をそのまま利用できる。

ということから、再エネ導入と併せて推進すべき重要な技術となっています。

 

④CCS・CCUSの実用化

「CCS:Carbon dioxide Capture and Storage」とは「二酸化炭素回収・貯留」のことで、排出されたCO2を集めて、地中深くに貯留・圧入する技術を指します。

「CCUS:Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage」とは、分離・貯留したCO2を利用する技術を指します。利用例としては、鉱物化してコンクリートにしたり、人工光合成等により化学品製造の原料としたりがあります。

いずれも排出された温室効果ガスを回収する技術で、カーボンニュートラルの完全実現には実用化が必須の技術となります。北海道の苫小牧で実証実験が進行しています。

 

以上の①~④により、電力の脱炭素化を進め、どうしても脱炭素できない電力は、直接回収することで、カーボンニュートラルを実現していきます。

 

(2)産業部門の主要課題

①電化

事業活動に必要な燃料・熱需要を、再エネで発電された電力に転換します。

 

②高熱需要でのバイオマス・水素・アンモニア活用

ボイラーなどの高温帯の熱需要は、電力では対応できないため、バイオマス・水素・アンモニアを燃焼して、熱源確保と脱炭素を実現します。

 

③製造プロセスでの低炭素化・CCUS

以下例のようなイノベーションが多数必要となってきます。

  • 鉄鋼業では、高炉での燃焼に、石炭ではなく水素を一部利用することで低炭素化を図る技術の開発・実用化。
  • 化学産業では、光触媒を用いて太陽光によって水から水素を分離し、水素と工場から排出されるCO₂を組み合わせてプラスチック原料を製造する人工光合成技術の開発・実用化。
  • セメント産業では、CO2を廃コンクリートなどに用いて炭酸塩として固定し、原料などに使用する技術の開発・実用化。

 

(3)業務・家庭部門

省エネ化と、電化が必要。

 

(4)運輸部門

乗用車・バス等の旅客部門では、電気自動車化が必要。

陸運・海運・航空貨物等の貨物部門では、燃料の電化では十分な動力とはなり得ないため、バイオマス・水素・アンモニア燃料を活用して、動力確保と脱炭素化が必要。

 

エネルギー消費側の産業・業務・家庭・運輸部門では、「省エネ」「電化」「バイオマス・水素・アンモニア活用」「CCUS等による回収」により、カーボンニュートラルを実現していきます。

 

5.私たちの生活は、どう変化するのか

最後に、私たちの生活はどう変化するのか、あくまで私の妄想ですが記載すると、

  • 家庭内では、ガスの電化が進み、ガスコンロ→IH、ガス給湯器→エコキュート、と置き換わるでしょう。また、建物自体の省エネ化の為、断熱性能向上目的のリフォームが進むのではと考えます。そのほか、庭・屋根・外壁への太陽光パネル設置がより加速すると考えます。
  • 街中では、ガソリン車はすべて電気自動車に変わるでしょう。また、あちこちに太陽光パネル風力発電の風車を目にすることになると考えます。
  • 職場では、厳しい省エネ基準が課せられ、達成にあくせくしているかもしれません。オフィスにおいては、ガスの電化が進んでいるかもしれません。また、事業活動でどうしても出てしまう温室効果ガスは、吸収するために植樹したり、排出権を購入しているかもしれません。(その排出権は、CCUS等で生み出しているかもしれません。)
  • ニュース番組では、風力発電のせいで漁獲量が減ったと訴える漁協組合が取り上げられているかもしれません。
  • 台風等の自然災害では、洪水・土砂崩れのほかに、再エネ発電施設が破損して停電が起きないか、なども関心事になるかもしれません。
  • 電気料金は、時間帯・気候に応じて価格変動し、天候を気にしながら電気を使用する習慣になっているかもしれません。

 

どんな技術革新・社会変革が起こるのでしょうね。人類の可能性に期待して、楽しみにしておきましょう。

 

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以上、思ったより長くなってしまいましたが、第6次エネルギー基本計画(案)を参考に、日本のエネルギー政策の見通しについて、簡単にまとめてみました。

関心のあるテーマなので、引き続き深堀して記事を書いていこうと思います。

 

ではまた。