みなさんこんにちは。
最近、在庫管理の本を読み漁ったり、仕事で実際に改善業務をしたりしておりました。
今日は学んだ知識の整理がてら、在庫管理の考え方・進め方について簡単に解説をしたいと思います。
これから在庫管理に取組まれる方、現在在庫管理を担当していて悩んでいる方の参考になれば幸いです。
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1.在庫とは何か?
まずは、管理対象である在庫について理解を深めましょう。
在庫とは、お金が姿を変えたもので、製造したり、販売したりするために持っている「資産」のことを指します。大事なのは「販売できる」ってことで、売れないならそれはゴミと一緒です。
在庫の例を具体的に挙げると、
- 原材料・部品
- 仕掛品
- 中間製品・半製品
- 完成品・製品
などはすべて在庫です。
また、在庫はどこにあるかというと、
- 原材料・部品・製品の仕入先
- 工場内
- 製造委託している外注先
- 輸送の途中
- 倉庫 ←みんなこのイメージが強い?
- 店舗
- 顧客先(預託在庫)
と、サプライチェーンのあちこちにあります。倉庫、お店、工場とかはイメージあると思いますが、そこ以外にもたくさんあります。
在庫管理とは、これら上記の在庫を適切に管理していくことを言います。(いろんな種類の在庫がいろんなところにありますね)
2.在庫を持つ理由は?(メリット・デメリット)
では、なぜこれらの在庫を持つのでしょうか。ここでは在庫を持つメリット・デメリットから理解しましょう。
【メリット】
-
お客さんの欲しいタイミングで商品を届けられる
-
需要変動に対応できる。
-
生産を平準化できる。
-
まとめ買い・まとめ生産によりコスト削減できる。
- 工程間の相互干渉を減らせる(在庫が少ないと、店舗で欠品しそうだから急いで納品しなきゃいけなかったり、工場の前工程遅れにより後工程が暇になったり、ということが起こる)
色々メリットはありますが、個人的には「お客さんの欲しいタイミングで商品を届けられる」というところが一番のメリットかと思います。
【デメリット】
- 在庫維持コストがかかる。(在庫管理のための管理工数、保管場所、金利負担等々)
- 汚損・破損・陳腐化により売れなくなる(ゴミに変わる)リスクがある。
- 収益に対する投資額が過剰になり、資本効率が悪くなり、企業価値が悪化する。
- 運転資金が増加し、キャッシュフローが悪化する。
- 在庫が重しになり、ビジネススピードが落ちる。(新商品に切り替えたいけど、まだ在庫残ってる…みたいな)
- 市場動向に鈍感になる。(多少の需要の変化は在庫で対応できてしまう)
- 問題の本質が見えにくくなる。(生産LTの長さ、品質不良などが、過剰在庫により見えづらくなってしまい、改善が進まなくなる)
デメリットも色々ありますね。
在庫管理を行う際は、上記の在庫を持つことによるメリット・デメリットのバランスをとって、最適な管理方法を構築することが非常に重要となります。
3.在庫管理は在庫の「持ち方」と「管理方法」と「業務設計」に分けて考える
では、ここから具体的な在庫管理方法の話に移ります。
在庫管理の要素を分解すると、①在庫の持ち方、②在庫の管理方法、③①・②を踏まえた業務設計、の3つにわけることができるかと思います。以下、在庫をどう持って、持った在庫をどう管理して、どう業務に組み込むか、を各要素ごとにご説明していきたいと思います。
3-1.在庫の持ち方
在庫管理の1つ目の要素である「在庫の持ち方」(=「何」を「どこ」で「どのくらい」持つか)についてですが、以下4つの観点から、俯瞰して考えることが重要と考えます。
①ビジネスモデルから在庫の持ち方の大枠を決める
そもそも企業はなぜ在庫を持つのかのというと、一番の目的は利益を上げるためです。そして、利益を上げるために、企業は最適なビジネスモデルを選択します。そして、ビジネスモデルが決まることによって、SCMの形が決まり、在庫の持ち方が決まります。
例えば、コンピュータ製造販売の大手デルは、顧客からのオーダーを受け、その要望に合わせて外部サプライヤから部品を調達して、カスタマイズした製品を生産、流通/小売業者を介さずに直接販売するデル・モデルを構築しました。
このようにビジネスモデルによりSCM・在庫の持ち方が決まるため、まずは自社のビジネスモデルを俯瞰することが重要です。そうすれば、自社の在庫の持ち方が大まかに決まってきます。
②デカップリング・ポイントの設定により、どんな在庫を持つかを決める
次に、デカップリング・ポイントを考えます。デカップリング・ポイントとは、「受注に対する在庫の構え場所」で、「計画ベースの業務」と「受注ベースの業務」の連結点(計画的に在庫を準備するポイント)のことを指します。前述のデル・モデルでいうと、組立前の部品在庫がデカップリング・ポイントに当たります。
ビジネスモデル・SCM形態に合ったデカップリング・ポイントを設定することで、どんな状態の在庫を持つかが決まります。
③在庫拠点と在庫配置方針を決める
次に、在庫拠点と在庫の配置方針を考えます。
在庫拠点を考える際は、なるべく集約しつつ、顧客満足度の観点からも考えることが重要です。
在庫配置方針を考える際は、各拠点の目的と役割を決めて階層化し、品目をマトリックスかで分類して配置を決めることが重要です。
例えば、在庫拠点を「センター倉庫」、中継基地である「地域倉庫」、顧客近くの「デポ」に階層化し、顧客LT短・出荷頻度多はデポ、顧客LT長・出荷頻度少はセンター倉庫、のように配置することで、最小の在庫で最大の品揃えを実現できます。
④基準在庫を設定して指標とする
基本としては「基準在庫=サイクル在庫+安全在庫」により設定します。ここで、安全在庫は在庫補充LT分を設定すると安心かと思います。
ただし、どこを基準とすべきかというのはなかなか難しい問題であり、また、仮に基準在庫を設定できたとしても、色々な要因により基準在庫通り管理とはなかなかいきません。
基準在庫をどこに設定すべきかは、あくまで人間がリスクをどこまで許容するかの意思決定の結果であるということ、そして決めた基準在庫はあくまで目安として活用することを意識されるとよいかと思います。
以上①~④により、在庫の持ち方を決めていきます。
個人的に一番大事と思うことは、顧客起点(利益起点)で在庫の持ち方を決めていくということです。ビジネスは利益に紐づいて設計されるべし、ということですね。
3-2.在庫の管理方法
何をどこで保有するか決まったので、次に「どのように管理していくか」をご説明したいと思います。
管理方法で重要なことは、顧客の需要~生産現場の状況までを俯瞰したうえで、在庫マネジメントを考えるということです。
具体的に言うと、需要計画-販売計画-★在庫計画★-生産・調達計画と、各計画を連動させてマネジメントすることです。
需要・販売計画に連動させて在庫計画を考えなければ、需要増で欠品したり、需要減で過剰在庫になってしまいます。
一方、生産・調達計画と連動させて在庫計画を考えなければ、在庫が必要なタイミングで生産キャパが不足して在庫を作れなかったり、在庫が余っているタイミングで在庫が生産されてしまったりします。
このように、在庫の管理方法では、顧客~生産現場までを連動させて管理していくことが重要になります。こちらでも特に重要と考えることは、顧客起点(需要起点)で在庫の管理方法を決めるということです。
3-3.業務設計
最後に、業務にどう組み込むかについてです。
こちらは、業務プロセスを図式化して全体像を把握することから始めるとよいかと思います。そして、詳細度を徐々に上げていき、担当者の具体的な業務まで落とし込むことで、全体最適な業務設計を行うことができるかと思います。
4.在庫管理の基本技術
以上3-1~3-3で在庫管理の大枠の考え方をご紹介しました。ここでは、決まった大枠を実装するための基本技術について簡単にご紹介したいと思います。
4-1.現品管理
管理対象である在庫の状態を正しく把握できなければ、管理のしようがありません。 つまり、在庫管理するうえで現品管理ができていることは必須となります。
現品管理を行う上では
- 入出庫管理と、入庫時に正しいロケーションに保管することで、常に帳簿の在庫数を正しい状態に維持
- 棚卸で帳簿・システムの在庫を正す
- 日ごろからの5s
が重要になります。
4-2.在庫の発注方式
在庫の発注は、基本的には需要計画と生産計画の状況を見ながらしていくのが望ましいのですが、古典的な発注方式について理解を深めておくことで、いろいろと応用がききやすくなるかと思います。
ここでは、発注時期・発注量により、4分類をご紹介します。
①定期定量発注:決まったサイクルで決まった量を発注
②不定期定量発注:
- 発注点方式(定量発注方式):発注点を下回ったら、定量発注
安全在庫=安全係数×√(LT)×単位期間あたり需要量の標準偏差
発注点=LT中の平均的な需要量+安全在庫
=単位期間あたり平均需要量×LT+安全在庫
経済的発注量=√{(2×1回あたり発注費×1年間の必要量)/1個の資材の年間保管費用}
理論在庫=サイクル在庫+安全在庫
=発注量/2+安全係数×√LT×単位期間あたり需要量の標準偏差 - ダブルビン方式:ビンを2つ用意し、片方のビンの中身が空になったら発注しつつ、次のビンを使う
③定期不定量発注:
- 定期発注方式:一定の発注サイクルで、発注の都度発注量を決める方式
安全在庫=安全係数×√(発注サイクル+LT)×単位きかなたり需要量の標準偏差
発注量=(LT+発注サイクル)の需要量予測量-発注残-現在在庫-安全在庫
理論在庫=サイクル在庫+安全在庫
=平均発注量/2+安全在庫
=単位期間あたり需要量の平均×発注サイクル/2+安全在庫 - 定期補充点方式:一定の発注サイクルで、補充点まで在庫を補充発注する
④不定期不定量発注
- 発注点補充点方式:発注点を下回ったら、補充点まで発注する方式
発注量=補充点ー発注点=補充点ー発注残-現在在庫ー安全在庫 - 定期発注点補充点方式:一定のサイクルで在庫量を確認し、発注点を下回った時に補充点まで発注する方式
発注点=(発注間隔+LT)×単位期間あたり平均需要量
+安全係数×単位期間あたり需要量の標準偏差×√(発注間隔+LT)
4-3.在庫見える化技法
在庫管理において、在庫を適切な形式で見える化することは、在庫の状況を把握するうえで非常に重要です。ここでは、見える化のパターンを箇条書きしたいと思います。
【在庫量を把握】
- 棚卸資産金額:単純に在庫の金額の増減を把握。
-
基準在庫と現在在庫数の比較:比較することで過不足が見える。
- 在庫回転率:月単位売上金額/月単位在庫金額 在庫が何回転しているかを把握。
- 在庫回転期間:月単位の在庫金額/月単位売上金額 売上に対し何か月分の在庫があるかを把握
-
在庫波動分析:在庫数、売上、在庫月数の推移を1つのグラフで可視化。在庫変動を把握。
【在庫の滞留を把握】
-
滞留在庫:動きがない品目を可視化し、廃棄・陳腐化リスクを把握。
- 在庫滞留分析:在庫の滞留数量、金額、滞留期間を可視化。在庫の無駄を把握。
- 入庫-出庫分析(流動数曲線):入庫累計線と出庫累計線を引き、その差である在庫推移を1つのグラフで可視化。在庫滞留やだぶつきが見える。
【在庫コスト・リスクを把握】
【重要品目を把握】
-
ABC分析:各品目を指標(売上等)の重要度で降順に並べ、各品目の重要度を把握
【受注対応力を把握】
- 受注引当率(欠品率):受注に対して、在庫によりすぐに注文に応じられる比率のこと。欠品率はその逆。
【販売・生産と連動した在庫状況を把握】
- PSI(Purchase/Production、Sales/Ship、Inventory)グラフ:生産計画、在庫数、販売計画の推移を1つのグラフで可視化。販売・生産に紐づけて在庫を管理。
【資本効率・資金繰りを把握】
色々な見える化技法がありますので、自社の状況に合ったものを選択してもらえればと思います。
5.在庫の削減方法
在庫は持たなくて済むならば持たないにこしたことはなく、在庫削減を目標に掲げる企業もたくさんいる状況ですので、最後に在庫削減の切り口を簡単にご紹介いたします。
①リードタイムを短縮する
短縮すべきリードタイムは、サプライチェーンの全体に渡ります。例を挙げると
- 計画リードタイム:在庫チェックから資材発注までの処理時間
- 手配、調達リードタイム:受注後の生産・調達開始までの処理時間
- 生産リードタイム:生産にかかるリードタイム。
- 配送リードタイム:ものを届けるのに要する輸送時間
リードタイム削減の方法としては、
- IT化により事務処理時間は削減
- 倉庫拠点を最適化し、配送LTを削減
- IEにより地道に生産リードタイムを削減
②在庫ポイントを絞り込む
在庫拠点の水平統合と垂直統合を図ることで、在庫拠点を減らし、各拠点の重複在庫を削減します。
また、生産中の在庫は、工程を連結して在庫が滞留できる場所をなくす、小ロット生産でロット作業による待ち時間を削減する、どちらも推進するためにセル生産を実施する、等により仕掛在庫を削減します。
③品目数を減らす
- A社向け、B社向け・・・等の発送先別在庫を一元管理したり、1ダース販売とバラ販売の在庫をバラ状態で保有することで一元管理したりと、在庫を一元管理することで○○向け在庫という見かけ上の品目を削減する。
- 部品数を設計見直し(一体化・共通パーツ化等々)により削減する。
以上、簡単にですが在庫削減の切り口をご紹介しました。ヒントになれば幸いです。
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かなり長くなりましたが、在庫管理の考え方・進め方についてまとめました。
在庫管理は抑えるべきポイントは少なく、難しくもありません。知るべきことをきちんと知り、活用することで、利益に結び付けていただければ幸いです。
ではまた。